コラム「男の顔ネクタイ」

Vol.4 職場でのネクタイUpdate:April 3rd, 2014

視聴者参加番組「だんなさんのネクタイ」で奥さん方の選んだネクタイの採点係を頼まれた。進行打合せの席へパタパタとスリッパで、「ほー、今日はネクタイですか」とTV 局には不似合いなおじさんが割り込んできた。

局の連中、ああまたかと少々しらけ気味だったが敢えてさえぎろうともしないところを見ると、大分上のえらいおじさんのようだった。だれに向かってでもなく、喋りだした。

「イヤー世の中変わりましたな、最近まで、おかしなボタンの付いたシャツに派手なネクタイ、こんなのだれが採用した!と思うてました『弊衣破帽、男の仕事は中身で決まる』でしたけど最近は変わりましたわ。うすよごれたシャツにシミのついたネクタイ、この男やる気あるんかいなと思うようになりましたわ、進歩ですな」と一気に喋るとだれの相槌を取るでもなく、またパタパタといってしまった。スタッフはなにもなかったように、さて、と打合せをつづけはじめた。

* 本番がはじまった。シャツ、スーツをまとった同じ顔の10体のマネキン人形にそれぞれ旦那さんを想定して奥さん方10人が前に並んだ約200本から選んでスーツに掛けたネクタイについて寸評をする。

「似合う」「似合わない」の公式があるでなし、奥さん方にダメを出して赤面してもらうこともあるまい・・・・・・・かといって、「いい加減なこと言ってる」とたまたま番組を見ている知人がいるかもしれない・・・・・。どうしたものか?といった些細な迷いは奥さん方の努力作を見た途端に消えた。
10本とも定説「男のお洒落のポイントはネクタイ」からほど遠く、ものの見事にネクタイがスーツの中に暗く沈み込んでいた。
街中より少々テンションの高い、スタジオ内だとしてもわびしいほどに「控え目」のネクタイばかり。
選択用におかれた残りから、奥さんたちが選んだ「好み」に近いものを取り出し、一体づつ取り替えていった。

「まず全体的にどうなんでしょうか?」と女性キャスター、「ご主人をイメージされながら選ばれたわけですが、共通しているのは実に無難だってことでしょうか。一体職場のどこにいるのか分からないような目立たないご主人では気の毒じゃないでしょうか」、「たまには職場の若い娘に、素敵!といわせてあげたらどうでしょう」。
月並みにきっと出るなと思った通り、男性アナ「私もそう思います。『妬くほど亭主モテもせず』っていいますから、・・・・・・・。
月並みな「主婦参加番組」は月並みに終わった。

* 「旦那さんが気に入らないからって、あの奥さん取換えにきたのこれで三回目よ、どうして本人とこないのかしら、ねえー」と、売り場の店員さん。

 なかには「まかせっきり」の人もあるだろうが、どうも奥様方ひな、「しぶい」「落ち着いた」「シックに」といったご主人像への共通した願望があるようだ。

「どぶねずみルック」の蔑称にも耐え、「普及率需要期」を働き続けた、戦中派、戦後派はいたしかたないにしても、もの余り時代の新人類、団塊の世代のなかにも「選ぶ楽しさ」が「人まかせ」だとしたら、勿体ない話。
  奥さん主導もたまにはよかろうが、ちなみに、ネクタイメーカー依頼の調査会社の数字では「頑張ってきてねと玄関で職場へ送り出したご主人のその日のネクタイを覚えていた奥さん」は30%弱だった。